RedHat($RHT)買収でIBM($IBM)はクラウド勝ち組になれるのか
最近IBM($IBM)がRedHat($RHT)をとんでもない金額で買収することが決定しましたが、今回はRedHatがどういう会社なのかと、パブリッククラウドでMicrosoft、Amazon、Google、AlibabaにコテンパンにされているIBMが今後クラウドで勝ち組になれるのか考察してみたいと思います。
1.RedHatについて
RedHatという会社はRed Hat Linuxというオペレーティングシステムのライセンスを売って収益を上げているIT業界ではとても有名な企業です。
1.1.Linuxについて
RedHatについて説明する前に、先にLinuxについて少しだけ解説したいと思います。
1.1.1.オープンソースのオペレーティングシステム
Linuxは「Windows」や「MacOS」と同じオペレーティングシステム(OS)の一種です。WindowsはMicrosoftが、MacOSはAppleが開発しており、実際の中身(ソースコード)は我々ユーザでは見ることができません。
一方、Linuxはオープンソースソフトウェア(OSS)といってソースコードが開示されており、誰もが見れるものになっています。
誰でも開発・配布ができるので、Linuxは「Windows」や「MacOS」と違い、様々なコミュニティで開発された異なる種類のOSがリリースされています。
というのは、Linuxカーネルと呼ばれる根幹部分は基本的に共通で、それをベースに各々コミュニティで特色あるLinuxを開発しています。
このLinuxカーネルをベースにして各コミュニティで開発されたものはLinuxディストリビューションと呼ばれます。
Linuxディストリビューションで有名所だと、Ubuntu、Fedora、あとスマホ用OSとして普及しているAndroidなどがあります。
1.1.2.GNU General Public License(GPL)
LinuxはGPLというライセンスで開発することが決められており、ソースコードは公開されていますので、基本的に無料で見ることができます。
しかし、これがなかなかの曲者です。
このGPLの特徴は、いかなる目的にも使えることと、GPLライセンスのソースコードを使って作成したソフトウェアは、それもまたGPLで公開しなくてはならない点です。この義務があるからLinuxは次から次へと改良が進み、高品質なソフトウェアへと進化したのですが、企業からしてみれば「せっかくお金かけて開発したのに公開しなくてはならない」ため、採用の大きな足かせになっています。このため、GPLライセンスは別名「GPLウイルス」とも揶揄される程です。
よって、Red Hatのメイン商品であるRed Hat Enterprise Linux(RHEL)も公開されています。
1.1.3.自己責任
「Windows」や「MacOS」はベンダーであるマイクロソフトやアップルがバグやセキュリティホールが見つかった時の対応をしてくれますが、Linuxのうち、無償で公開されているものは「自己責任」という大きな課題があります。タダより高いものはないということです。
1.2.Red Hatの特徴
1.2.1.手厚いサポート・保証が得られる
上記の通り、Linuxは自己責任であるものの、原則無料で使えるOSですが、Red Hatの提供しているディストリビューションは有料です。ただし、長期的かつ安定した開発方針と、高いレベルのサポートが受けることができます。
RedHatは Red Hat Networkと言うサイトで各種パッチやイメージデータがダウンロードできます。また、サポートへの問い合わせも可能です。
この評価が高くRedHatは有償のLinuxのうち、85%がRedHat製品となっています。
一方、無償のディストリビューションのLinuxは、コミュニティのいわばボランティアです。したがって、不具合が見つかってパッチが必要になっても、誰かがボランティアでパッチを作ってくれないと、不具合は治りません。この不具合が原因で業務に支障が出ても当然自己責任となります。
1.2.2.Fedoraによる実証実験(アップストリームファースト)
RedHatは最新の機能やバグ修正を自社製品であるRed Hat Enterprise Linux(通称RHEL[読み方:レル])に対して即適用するのではなく、RHELの前段(アップストリーム)にあたる、無料のディストリビューション「Fedora」で実証実験を行います。
RedHatに採用されるのは、Fedoraプロジェクトの中で安定性が高まったものです。
まあ、ある意味Fedoraは安定性はRHELより低いもの、最新鋭の機能が入ったものを使うことができるのですが。。
Fedoraは半年スパンでガンガン最新バージョンをリリースするのに対し、RHELはだいたい1.5年スパンとなっており、長期的な運用を行う企業でのニーズにマッチしています。
1.2.3.RHELのソースコードは公開されている
RHELはLinuxです。したがってGPLライセンスですので、なので当然「公開」されています。実はこの公開されたソースコードを使って、RHELと完全互換を目指しているコミュニティがあります。それが「CentOS」です。
RHELのソースコードをもとに作られていますので、安定性が非常に高い無償ディストリビューションとなっており、無償Linuxでは企業に最も使われているのではないでしょうか?
ただし、サポートや保証がない点と、若干違いはあるようです。
CentOSは悪くいえば「パクリ」なのですが、何とRedHatはこのCentOSのプロジェクトを支援しています。RedHatはRHELの価値はOSの機能ではなく、「サポート力」にあると考えているためできる芸当です。
RedHat周りのディストリビューションの関係としては絵にするとこんな感じです。
2.Red Hatの成長性
以下リンクによれば、国内で使われているサーバOSのうち、Windows Serverが52%(前年比成長率は3.9%)、Linuxが24.8%(前年比成長率が13.5%)、このLinux市場のうち、83.1%がRedHatのシェアです。即ちサーバOS市場の20.6%を持っており、今後も成長が見込めます。
3.RedHatを使ったIBMのクラウド戦略
IBMが日本円にして4兆円弱もの大金をはたいてRedhatを買収予定です。
これはソフトウェア業界では類を見ない大規模な買収であり、IBMの渾身の戦略と言われています。
現在、世間ではクラウドサービスが流行りですが、実はクラウドサービスには大きく3種類があります。それが①パブリッククラウド、②プライベートクラウド、③ハイブリッドクラウドです。①パブリッククラウド皆さんがよく聞くクラウドサービスは概ねパブリッククラウドのことです。そのトップ3はAmazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure 、Google Cloud Platform(GCP)、Alibaba Cloudです。IBM Cloudは現在第5位となっていますが、その差は広がりつつあります。
パブリックでは後れをとっているものの、IBMが得意なのはどちらかと言えば②のプライベートクラウドです。プライベートクラウドは、その企業だけが専有して利用可能なクラウドサービスです。
③のハイブリッドクラウドというのは①と②の組み合わせです。
プライベートクラウドは特に業務システムなどの基幹系システムに向いています。
IBMはこれまでオンプレミスで上記システムの開発・構築を行ってきていますので、プライベートクラウドは十八番でしょう。
オンプレミスとはクラウドの対義語で、要はサーバを買ってソフトを入れて、ネットワークを整えて、サービスを利用できるようにするものですが、大量の個人情報や基幹業務で使われているオンプレミスのシステムをクラウドに移行する場合などはプライベートクラウドが使われることが多いのです。
実は業務システムは依然8割がオンプレミスで稼働していると言われており、これをクラウド化する市場はかなり大きいのです。
今後は数多ある中小企業を、現在オンプレミス&RHEL→プライベートクラウド&RHEL→IBM cloudと導くイメージでしょうか。
4.IBMはクラウド勝ち組になれるのか?
RedHatにはRHEL以外にもOpenShiftというIBM Cloudと親和性が高いコンテナプラットフォームも持ち合わせており、シナジー効果が得られることは間違いありません。
ただし、あまりにも巨額な金額での買収であるため、買収分を回収できるだけのパワーを生み出せるのか。ここが悩ましいですね。。
かなり安くなってるし高配当ですが、しばし様子をみつつ、買うかどうか決めたいと思います。